ナラティブ・アプローチとは、手助けを求める人自身の自発性に任せて思い・考えを語ってもらうことにより、手助けをする側の人と「物語を共有する(同じ現実を見る)」心理的手法のこと。
人のこころや記憶は、自身が経験した事柄をつなぎあわせた「物語」で構成されています。介護を求める人の思いをしっかり聞いて介護をする側と同じ目標を持つ必要がありますが、このとき介護を求める人自らに語ってもらい、内面的強さや自尊心の向上を促すための方法として用いられることがあります。
1.福祉の場面におけるナラティブ・アプローチ
過去に親しかった友人と特定の事柄について話をしているとき、「あれ、そんな風に思っていたの」ということは珍しくありません。しかし、ときにその同じ経験が人に深い傷を負わせていることも少なくないものです。
このように、「話をしなければ理解できないこと」はとても多いものです。特に介護をされる側(ときとして自身を弱い立場と誤解している)は、自分の思いを伝えることを難しく考えている場合があります。
介護する側がよかれと思ってしていることが、当の本人にとって苦痛であることもないとはかぎりません。これからどうしたいか、本人の意思をしっかり聞き、自尊心を尊重することが大切です。
2.ナラティブ・アプローチの事例
ナラティブ・アプローチは、精神領域で広まっている手法のひとつです。こころの問題に取り組むためのものですので、以下のような症状・現象を経験した事例を持つ人に対し採用されることがあります。
- いじめの対象となっていた
- 犯罪に巻き込まれた
- 拒食症と診断された
- 大きな自然災害に遭遇した
- 虐待されていた
これらの事例を経験した人は、自分ひとりでは抱えきれない「大きな荷物」を背負っています。もちろん大きな病で寝たきりになったという事例も例外ではありません。
だれかにわかってもらいたい、これからどうしたい、ということは、こころのキズにより蓋をされた状態かもしれませんので、少しずつ語ってもらいながら、自分の経験(物語)の再構築と自尊心の取り戻しを目指します。
3.ナラティブ・アプローチの実践
これまで、介護や看護の場面では「専門家と患者(要介護者)」という図式の中で介護・医療行為が行われてきました。そのため、支援を受ける人は、「専門家の言うことだから正しい」と、こころや体の苦痛を口にすることをしない傾向にありました。
しかしながら、本人が無理と感じる指示やアドバイスを受けたとき、相手に対して苦い思いを持ったり、反発心から支援に非協力的になることも考えられます。そのような「壁」を越えるために、手助けを求める人の思いや体験に寄り添い、その言葉にしっかりと耳を傾けることが必要とされ始めたのです。
話の中で、客観的に見て「それは違う」というポイントが現れてくるかもしれません。その“こだわり”が問題解決の糸口になることがあります。専門家という肩書きを一旦外し、「人対人」として本人に自由闊達に語ってもらうことで、本当に必要な支援を見出し、共に目指すのがナラティブ・アプローチです。
まとめ
ナラティブ・アプローチとは、人のこころに寄り添い、共に目指すべきものを共有する手段です。看護・介護の場面のみならず、対人関係を求められる職種からも注目されています。ナラティブ・アプローチについては、以下の4つを特に理解しておきましょう。
- ナラティブ・アプローチとは、要支援者・要介護者自身に思いを語ってもらい、何が必要かを共有する手法を指すことば
- 福祉においてのナラティブ・アプローチは、これから本人がどうしたいか・過去に苦痛を感じたことがないかを丁寧に聞くことからはじまる
- ナラティブ・アプローチを採用する事例は、いじめや犯罪に巻き込まれたなど「こころのキズ」を余儀なくされたケースが多い
- ナラティブ・アプローチを実践する最初の段階は、「専門家と患者(要介護者)」という立場の違い(壁)を取り払うことから