介護に関連する資格は数多くあります。介護全般に携わるものから、特定の役割を担うものまでその幅は広く、それぞれ等しく誰かの役に立つ仕事です。自宅・入所(入居)にかかわらず、「介護の場」で出会うそれらの有資格者は、各々どのような働きをするのでしょうか。
今後自分の親の介護のときに役立つよう資格取得を目指している方もいらっしゃるでしょう。どの資格が何を担っているのかを知ることは、資格取得にも、ご自身の親や祖父母の介護にも役立つはずです。
今回は、介護にまつわる資格についてご説明します。
※この情報は、2017年のものです。今後変更・改訂されることもありますのでご注意ください。
1.介護全般を知るゼネラリスト

介護とは、介護保険制度をはじめとした幅広い知識を持つ「ゼネラリスト」がいてはじめて、スムーズに行えます。相談に来た要介護者にとって何が必要で、どのような公的支援が準備されているのか、そのとき求められる自己負担額はどの程度になるのかなど、適切なアドバイスが基本となるからです。
また、介護の現場でも、ケアに励むスタッフを束ね、適切な指導・アドバイスをする役目を担う人もいます。
1-1.【ケアマネージャー(介護支援専門員)】介護のプランを立てる・事業者と連携する
要介護者からの相談を受け、身体・こころの状況に適したサービスが何かを理解し、要介護者・自治体・サービス事業者との連携を築く仕事です。要介護者を支えるためのサービスは、ケアマネージャーが作成した「ケアプラン」をもとに実施されますので、重要な役割といえるでしょう。
介護保険制度に則ってプランを作成したり、申請書を作成するアドバイスをするのがケアマネージャーです。職場は、介護福祉関連の施設や、居宅介護支援事業所、グループホームなどです。
ケアマネージャーになるためには、
- 医療・福祉に関わる国家資格、生活指導員、支援相談員、相談支援専門員、主任相談支援員などの実務経験が5年以上ある
- 年に1度、都道府県が実施する試験に合格する
という条件を満たさなければなりません。(東京都介護支援専門員実務研修受講試験│公益財団法人東京都福祉保健財団)。
1-2.【介護福祉士(ケアワーカー)】ヘルパーなどを束ね介護の現場を円滑にする
介護福祉士は、国家資格です。要介護者にとって重要な食事・入浴・歩行・排泄などへの指導や手助けをしたり、施設などで現場責任者として働くことができます。いわゆる「ヘルパーさん」を束ねる仕事で、介護の最前線を円滑に運営するための知識と経験が必要です。
介護福祉士になるには、
- 介護施設での介護業務がある、高校の福祉課などで教育を受けている
- 国家試験に合格する
という方法がありますが、2017年現在では
- 厚生労働大臣指定の4年制大学・短期大学・専門学校で特定の教育を受ける
ことで、国家試験を受けなくても介護福祉士になれます。しかしながら、将来的には国家試験受験が必須になることが決まっています(受験資格(資格取得ルート図)│公益財団法人社会福祉振興・試験センター)。
1-3.【社会福祉士(ソーシャルワーカー)】要介護者の相談に幅広く対応
社会福祉士とは、ケアマネージャー(介護支援専門員)と同じように、支援を要する人の相談に乗るのが仕事です。ケアマネージャー(介護支援専門員)は高齢者の支援が中心であるのに対し、社会福祉士(ソーシャルワーカー)は障害福祉・高齢者福祉・生活保護など、“テリトリー”が広いのが特徴です。
そのため、資格取得には、
- 4年制大学(指定科目修了)、もしくは短期大学(指定科目修了)+実務経験+養成施設での経験
- 国家試験に合格
することが求められます(社会福祉士国家試験│公益財団法人社会福祉振興・試験センター)。職場は主に、地域包括支援センターや障害者福祉施設、各種学校(スクールソーシャルワーカー)です。判断力・決定力が低下した人を保護するための成年後見人制度で「後見人」となれる職業のうちのひとつです(「ぱあとなあ」では、たとえばこのような相談に応じます│公益社団法人日本社会福祉会)。
2.特定の分野を深く知るスペシャリスト

介護の現場では、要介護者の状態に合わせ適切なケアや措置がとても重要です。医師などの指揮下で、実際に要介護者の体やこころに触れながら必要な支援を行う人員が多く求められています。
2-1.【精神保健福祉士(精神科ソーシャルワーカー・PSW)】精神的状況を見守り、ケアを行う
認知症や、精神的障害のある要介護者を支えるための国家資格です。グループホームやデイケア、ケアホームなどが職場で、精神保健福祉法や障害者自立支援法に則った仕事を行います。要介護者の状態を見守りながら、個々人にどのような精神的ケアが必要かを考えたり、要介護者同士のコミュニケーション促進をはかったりします。
資格を取得し、資格を生かした就職に至るまでには、
- 福祉系大学や短期大学を卒業+指定科目履修+相談援助実務、一般大学や短期大学を卒業+相談援助実務+養成施設で学習など
- 国家試験に合格
- 精神保健福祉士資格取得の後、登録
が必要です(受験資格(資格取得ルート図)│公益財団法人社会福祉振興・試験センター)。
2-2.【理学療法士(フィジカルセラピスト・PT)】運動療法でリハビリをサポート
ケガ・病気のみならず、障害や老化からくる体の機能を維持・回復するため、運動療法などを用い、日常生活をスムーズに遅れるようリハビリのサポートをするための国家資格です。要介護者の状況にあわせ、座る・立つ・歩くなどの基本的動作にどのようなプログラムが必要かを考えます。
資格取得のためには、
- 専門学校や短大を卒業、もしくは大学で理学療法士課程を修める
- 国家試験に合格
というルートをたどります(理学療法士国家試験の施行│厚生労働省)。
2-3.【作業療法士】身体機能・こころの問題に寄り添う
私たちの日常は、座る・立つ・歩くといった基本動作のみならず、何らかの作業で成り立っています。着替え・トイレだけでなく家事や仕事、他の人とのかかわりの多い地域活動などがそれらです。介護の現場では、身体機能のみならず、脳の問題(こころの問題)にも目を向け、要介護者がより質の高い暮らしができるようサポートします。
資格取得し、就職するためには、
- 大学や専門学校などの学校養成施設を卒業
- 国家試験に合格
という道を歩みます(作業療法士の国家試験の施行│厚生労働省)。
2-4.【言語聴覚士】言語や嚥下に関する機能低下を避ける手助け
人間にだけ与えられた特別な能力である言語コミュニケーション能力の衰えは、要介護者本人に心的ストレスを与え、こころが内向きになりやすいものです。また、嚥下(えんげ・食べ物の飲み込み)能力の落ち込みもまた、健康状態を大きく左右します。この衰えや障害を可能な限り取り除く仕事を、言語聴覚士が担っています。
資格の習得には、
- 指定された大学や短期大学・専門学校で学ぶ、もしくは一般4年制大学卒業後に大学などの専攻科を修める
- 国家試験に合格
することが必要です(言語聴覚士になるには?│一般社団法人日本言語聴覚士協会)。
2-5.【柔道整復師】脱臼や骨折の応急処置・リハビリをサポート
介護の現場では、転倒による脱臼・骨折など、急を要する場面も少なくありません。これらの応急措置をしたり、打撲や捻挫などにも対応できるのが柔道整復師です。応急措置ののち、医師の指導のもとで治療のサポートをします。リハビリにも応用が利きますし、接骨院などを開業することもできます。
資格を取得するためには
- 指定された大学や専門学校を卒業
- 国家試験に合格
しなければなりません。(柔道整復師国家試験の施行│厚生労働省)。
3.現場で要介護者に寄り添うヘルプ役

各種のゼネラリスト・スペシャリストがすべての要介護者の手助けすることは困難です。そこで介護の最前線で細やかなケアをするために必要なのが、要介護者のヘルプ役です。ただ単に要介護者のニーズに応えるだけでなく、特定の分野で自分の持ち味を発揮できる研修・資格があります。
3-1.【喀痰吸引等研修】たんの吸引・経管栄養に関する手助け
要介護度が高い方は、食事が摂れない・咳で痰を出せないことがあります。生命に関わることで、なおかつこまめな手伝いが求められますので、経管栄養(胃ろう・腸ろう・経鼻)やたん吸引といったケアが行える人が必要です。研修を受けることでこれらの行為の実行を認められます(喀痰吸引等制度について│厚生労働省)。
3-2.【重度訪問介護従事者】入浴・食事から家事まで幅広く手伝う
体を動かすことが困難な方は、自宅での入浴や排泄、食事はもとより、家事の手伝いをも求めています。必要に迫られて外出しなければならないとき、移動中に際してのサポートが必要なこともあります。自治体の指定する団体などが行う研修を受講することが必要です(重度訪問介護従事者養成研修│公益社団法人かながわ福祉サービス振興会)。
3-3.【福祉用具専門相談員】介護に必要な用具に関する相談に乗る
自宅での介護には、ケアのための機器・器具などが不足します。車椅子や電動ベッド、浴室やトイレで用いる介護用具など、要介護者の状態に合ったものを用意しようとするとき、「何が必要なのだろうか」「介護保険は使えるのだろうか」といった疑問がわきますが、それらの質問に対応できるのが福祉用具専門相談員です。
受講するだけで福祉用具専門相談員になることができますが、
- 受講=都道府県知事指定の研修事業者が行う講習を受け、筆記による修了評価をパスする
- 受講の必要なし=看護師・保健師・理学療法士・作業福祉士・介護福祉士・理学療法士など(※介護保険を利用する福祉用具貸与販売事業者での相談のみ)
と、勤める職場により受講の要・不要が異なります(福祉用具専門相談員についてのQ&A│一般社団法人全国福祉用具専門相談員協会)。
3-4.【介護予防運動指導員】運動のサポートで要介護度が上がらないようにする
要介護者は、さらなる加齢による心身状態悪化により、「歩く・食べる」という生活に不可欠なことがしづらくなってしまいます。これを予防するため、個々人の持つ力に合わせた軽い運動の指導をしたり、必要に応じて医療機関や福祉機関へつないだりするのが介護予防運動指導員です。
受講には
- 旧ホームヘルパー2級や初任者研修修了者(2年以上の実務経験)など
- 医療分野における国家資格取得者
の条件が付されています(介護予防運動指導員養成事業│地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター)。
3-5.【介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)】家事など身の回りの世話
訪問介護には、食事を作る・掃除をするといった家事、入浴や排泄の手伝いをすることが求められます。基本的にはひとりで訪問しますので、要介護者の心身の変化に気づき、それに見合った連絡先に伝達する判断力が必要となります。
受講のための資格(条件)は求められていませんので、仕事に役立てるためだけでなく、親御さんやご親族の介護のために学ぶ方もいらっしゃいます(訪問介護員の養成(介護職員初任者研修)と現任者のスキルアップ(実務者研修)について│日本ホームヘルパー協会)。
3-6.【行動援護従業者養成研修】認知症により行動に問題がある人をサポート
主に認知症などにより、行動に問題を抱えがちな方を支えるための仕事を行うために学んでおきたいのが行動援護従業者養成研修です。日頃の家庭内の生活・外出先でのサポートを適切に行うための研修です。受講には、介護に関わった経験や資格の有無は問われません。自治体指定のNPOなどが講座を開いています(高齢化社会でも、安全で安心して暮らせる街づくりのために│特定非営利活動法人福祉ネットワーク協会)。
※これまでも「実務経験2年以上」で同様の働き方はできましたが、平成30年4月以降はこの研修を受講しなければ従事できなくなります。
4.資格と介護シーンの関係
上記のほかにも、様々な資格や研修制度がありますが、これまでご説明してきたとおりそれぞれに受け持つ範囲が異なります。特に在宅介護(看護)で多く利用されるサービスと、それにまつわる資格などについて、図でご説明します。
※上で挙げた主な資格・研修制度以外のものも含みます。
仕事内容 | 資格名 | |
訪問介護 | 訪問介護に関する相談に乗る・ケアプラン作成をする |
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自宅での介護をサポートする ※ケアプランにより変化 |
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介護に必要な用具に関する相談に乗る |
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訪問看護 | 栄養状態の相談・管理をする |
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処方された薬に関する相談に乗る (服薬状況チェック・錠剤が飲みにくくなった・効き具合が不安) |
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病院などに行けないとき、訪問診療をする |
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在宅看護で必要な注射や点滴などをする |
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健康全般に関する相談に乗る |
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デイサービス/ショートステイ | 生活全般に関する相談に乗る・ケアを担当する |
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リハビリに関するサポートをする |
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栄養面をチェック・指導する/食事を作る |
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医療面でのサポートをする |
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介護施設で介護にあたる
※ケアプランにより変化 |
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まとめ
介護にまつわる資格は数多く存在します。要介護者の状態が、介護のみならず医療の分野からの手助けが必要なこともあるからです。誰に何を相談・依頼すべきなのか、またはこれから介護の仕事にチャレンジしたい、親のために介護の知識を身につけておきたい、いずれのケースにしても知っておいていただきたいのは以下の5点です。
- 介護に関する資格を得る方法は、「国家資格」「公的資格」「研修・受講」に分けられる。専門度が高いほど「国家資格」が必要で、関われる仕事が広がる
- 得たい資格によっては、たどるルート(大学・短期大学・専門学校)が異なる。受験するために、学歴に加え、実務経験が必要なものもある
- 研修・受講で得られる資格は、自治体もしくは自治体指定団体が講習会を開く。タイミングを逸しないよう、適宜スケジュールをチェック
- 資格を得るために、他の国家資格や実務経験を要するものもある。どのような人材になりたいのか、自分でプランを立ててステップアップを図る
- 親の介護のために学んでおきたいのは「介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)」。介護の基礎知識が身に付くので、介護の実践・相談ごともスムーズに進む