有料老人ホームと聞くと、どのような施設を思い浮かべますか。食事が提供される、介護を受けられる、健康を害したときには何がしかの対処をしてもらえる…。このようなイメージではないでしょうか。
今回は、このような有料老人ホームのうちのひとつ、「健康型有料老人ホーム」についてご説明したいと思います。
「もしかすると老人ホームに入ったほうがよいのでは」とお考えの方に、よりよい有料老人ホーム選びができるよう役立てていただければと思います。
このページの目次
1.健康型有料老人ホームとは?
健康型有料老人ホームとは、その名の通り「まだ元気だが、ひとり(ないしは夫婦ふたりだけ)で生活するには少し不安がある」という人向けの老人ホームです。
家事をするのが少し辛くなってきた、程度であればこの健康型有料老人ホームがぴったりでしょう。
- 見守り
- 食事の提供
- 掃除や洗濯の世話
- 何かしらの緊急事態への対応
- ジムや温泉など「楽しめる」設備
などで、快適なシニアライフを楽しめる住まい、と理解していただければよいものです。
1-1.健康型有料老人ホームの住居条件
健康型有料老人ホームは、基本的に「住まいとしての機能」を備えているものですので、入居に関しては条件が付きます。まずは、要介護状態でないことが大きな条件となります。
- 60歳以上
- 基本的に自立した生活ができること
- 入居一時金+月額利用料金が支払えること
- 身元引受人(保証人)がいること
どちらかというと、老後を楽しむための場所で、「アクティビティの充実」を重視している住まいですので、費用面での負担は致し方ないところでしょう。
1-2.健康型有料老人ホームのデメリット
名称からご理解いただけるとおり、「健康でなくなったとき」(介護や看護が日常的に必要になったとき/認知症となったときなど)は、退去しなければならないのが健康型有料老人ホームの基本ルールです。
このことから、「次に行くべき場所」を探しながら入居生活を送らなければならないということがデメリットといえるでしょう。
1-3.健康型有料老人ホームは「ほとんどない」
健康型有料老人ホームの数は、平成25年度の調査で16件(定員611人)しかなく、とても珍しいものといえます。一方、健康型有料老人ホームに類似する住宅型有料老人ホームは5,100件(定員143,466人)、サービス付き高齢者向け住宅は2,875件(88,536戸)です(平成25年度有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅に関する実態調査研究│全国有料老人ホーム協会)。

平成25年度有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅に関する実態調査研究│全国有料老人ホーム協会
健康型有料老人ホームは、「いずれ他の場所へ移らなければならないこと」が明白である施設です。
このことから、「最初から外部の訪問介護サービスを利用しながら生活できる施設」、もしくは「有料老人ホーム自体に介護サービス提供機能がある場所」を選ぶのが自然な流れなのでしょう。
2.健康有料老人ホームに必要な費用は?
健康有料老人ホームは、あくまで「見守りなどのサービスの付いたマンション(ないしはホテル)」のようなイメージです。
そのため
- 入居一時金=0~数千万円(施設利用のための権利取得費用)
- 月額費用=10万円~(居住費+食事や掃除洗濯など)
「入居一時金と月額費用の2段階の支払い」が必要です。施設や食事が豪華なほど高くなりますし、そのホームがあるエリアの地価が高ければ高いほど入居一時金や月額費用は高騰します。
2-1.入居一時金の「償却」については要注意
健康な方が老後を楽しむために入居をする健康型有料老人ホームは、ホテル住まいを思わせるゴージャスさを売り物としているところもあります。このため、入居一時金は数千万円となることもあるのです。
もちろん、その施設やサービスに満足し、金額設定に不満もないのであれば支払う価値はあります。しかしながら、入居一時金は「入居のための権利を購入するもの」で、償却期間などが設定されています。契約前に細かくチェックする必要があります。
注意するべき点は、
- 入居一時金はいくらなのか
- 何年かけて償却するのか
- 施設協力金・終身利用権金など償却の対象でないお金が含まれてはいないか
です。
未償却となっている部分のお金は退去時に返却されますが、最期の注意点である「施設協力金・終身利用権金など償却の対象でないお金」がある場合はその例から外れます。
この償却対象とならないお金は、一旦契約し入金してしまうと戻ることはありませんので、契約前にきちんと確認(口頭で聞く・契約書を隅々まで読む)しなければなりません。
3.健康型有料老人ホームの設置基準
各種老人ホームには、設置基準と呼ばれるものがあります。
- 入居者人数に対してのスタッフ数
- 設備(居室や廊下、共用部分の広さなど)
- 利用者に対しての生活や介護にまつわる職員数
しかしながら、健康型有料老人ホームに関しては、「健康な人が老後を楽しむ場」であるだけに、特定の基準はありません。施設長1名、生活相談員・介護職員・看護職員・機能訓練指導員は必要数とだけ示されています(有料老人ホーム設置に関する主な基準及び手続き│茨城県)。

有料老人ホーム設置に関する主な基準及び手続き│茨城県
そもそも、健康な人が楽しい老後を過ごすための場所ともいえる健康型有料老人ホームですので、この点に関してはどなたも異論を唱えることはないでしょう。
しかしながら、せっかく大きな金額の入居一時金や月額利用料金を支払うのです。できる限り長くいられるよう、そして入居している間により快適に生活できるよう、見守り体制や支援体制が充実しているところを選びたいものです。
4.新しいタイプの健康型有料老人ホームも
健康型有料老人ホームには、新しいタイプのものも現れています。高齢者のみならず他の世代が共に住むアパート風のものです。
一見普通の賃貸住宅なのですが、老人ばかりではなく若い世帯も入居、交流を楽しめるホームで、別名「多世代型住宅(ないしは多世代地域交流型住宅)」とも呼ばれます。
それでいて、介護食の提供、掃除や洗濯のサービス、病院への付き添いにも対応しています。
部屋タイプ | 広さ | 契約 | 入居一時金 | 月額(食費・管理費込み) |
1階(ひとり利用) | 平均44平方メートル | 賃貸借 | 0円 | 15万3,000円 |
1階(ふたり利用) | 平均44平方メートル | 賃貸借 | 0円 | 23万1,000円 |
2階(ひとり利用) | 平均44平方メートル | 賃貸借 | 0円 | 14万3,000円 |
2階(ふたり利用) | 平均44平方メートル | 賃貸借 | 0円 | 22万1,000円 |
※この料金表は、群馬県のあるホームの例です。
自立した生活ができるうちは、このように若い世代とも和気あいあいと過ごせるホームを探すのもひとつの方法です。子や孫のような年齢の人たちとも交流できれば、たとえひとり住まいであっても寂しさを感じることはないでしょう。
また、高齢者自身と子の世帯がこのような住まいに共に入居することができれば、相互に「近すぎず遠すぎず」の関係性を保ちながら、いざというときの対応にも不安なく生活できることでしょう。
5.健康型有料老人ホームでの1日の流れ
介護を目的とした老人ホームとは異なり、健康型有料老人ホームでは特に決まりごとはありません。有料とはいえ食事の提供や家事手伝いのサービスを利用できますので、費用負担さえできれば「自分ですることはほとんどない」暮らしも可能です。
好きな場所に出かけたい、自分の趣味に没頭していたいなど、自分のペースで生活することができます。また、ミニキッチンが付いている部屋であれば、自分自身で料理をしたいときもそれをかなえることができます。
6.健康型有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅の違い
ここまでお読みになった方は、「健康型有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の違いがわからない」と思われているのではないでしょうか。
一番の違いは、大きな額の入居一時金が必要かどうか、です。住まいとケアをまとめてひとつのサービス提供者に求めるのか、終身そこに住まうのか、がひとつの“考えどころ”となります。
ホーム(住居)種 | 契約方式その他 |
健康型有料老人ホーム | 入居一時金を支払うことで、終身にわたって住まう権利と生活支援サービスを受ける権利を得る
月額利用料金が発生する 介護や継続的医療が必要になったときは退去 |
サービス付き高齢者向け住宅 | 賃貸契約を結ぶ(敷金が必要)+毎月の家賃
必要に応じサービスを選択した上で、生活支援サービスを別途契約 介護が必要な場合は、在宅介護サービスを利用(一般住宅で介護を受けるのと同じ仕組み) ※中には介護・看取りにまで対応したサ高住も |
これらが、主な違いといえます。
※いわゆる「老人ホーム」の違いについては、以下の記事もご参考になさってください。
基本的な違いは上記のように定められてはいるものの、サービス付き高齢者向け住宅のなかにも利用権方式を採っているものもあり、ある調査では「入り混じって誤解を招きやすい」、「市民の目からはわかりにくくなっている」と指摘しています(平成25年度有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅に関する実態調査研究事業報告書(「はじめに」部分)│全国有料老人ホーム協会)。
このことを考えると、
- 本当に、大きなお金を払って終身契約をするべきか
- 月額利用料金には何が含まれているのか
- 月額利用料金(≒サービス)と、自分の望む暮らしとはマッチしているか
- 先々のことを考えると、高齢者向け住宅(サ高住含む)も選択肢にはいらないか
を充分に吟味し、体の自由が効かなくなったときのことまでを考え、入るべきホーム(施設/住宅)を選ぶことが大切です。高齢になればなるほど、周囲の環境や人間関係に馴染むのに時間がかかりますので、ただ単に好みの問題ではなく、「長期間可能な限り転居せずに住めるかどうか」も重要な課題となります。
まとめ
健康型有料老人ホームとは、老後の生活の不安を減らしながら楽しく過ごしたいと考える人にとって魅力的なものです。しかしながら、その一方では費用の点で複雑で、いずれは退去しなければならない可能性があり、とても悩ましい面も持ち合わせています。
高齢者向けの住まい(ないしは施設/ホーム)は他にも多く存在しますが、あなたやご家族にとって健康型有料老人ホームが最も適しているかどうか、充分に検討し後悔のないようにしたいところでしょう。
健康型有料老人ホームについて解説しましたが、以下の5つを特に理解しておきましょう。
- 健康型有料老人ホームは、まだまだ元気で老後を楽しみたい人向けのもの
- 健康型有料老人ホームに入る条件は、「要介護状態でないこと」。健康でなくなったときは基本的に「退去」となる
- 健康型有料老人ホームの数は「ほとんどない」のが現状
- 高齢者だけでなく、若い世代と共に住むスタイルの健康型有料老人ホームもある
- 高齢者は環境に馴染むのに時間がかかる。退去が必要となる可能性が高い健康型有料老人ホームが適しているかどうか、将来を見据えて検討を