もしもご家族のだれかに「最近物忘れがひどい」、「話がかみ合わなくなってきた」、「感情的になってきた」というシーンが増えたら、認知症を疑わなければならないかもしれません。認知症は高齢者だけでなく、若年性認知症といって、64歳以下であっても認知症を発症することがあるのです。
しかしながら、先に触れた症状は認知症であることもあれば、認知症でない場合もあります。認知症であるかどうかは、「検査」によって診断が下されるものです。では、認知症の検査にはどのようなものがあるのでしょうか。そして、それはどのように進められるのでしょうか。今回は認知症の検査について解説いたします。
このページの目次
1.病院に行く前に

認知症かも、と感じたときから行うべきことがあります。それは、検査に先立っての準備です。認知症が疑われるご本人ができないこともありますので、そのようなときはご家族が手伝う必要があります。
1-1.異変に気づいてからの経緯をメモ
認知症かも、と気づいてからどのようなことがあったのかを具体的にメモしておきましょう。また、人とうまくコミュニケーションがとれなくなったとき、どのような状況であったのかも診断には重要な情報です。
たとえば、
- 物忘れはいつ頃始まったのか
- 話がかみ合わないことは、どのようなシーンで感じたか
- それらの症状は普段の生活に支障をきたすと思えるほどのものか
- 持病はあるか、あればその治療のためにどんな薬を服用しているか
など、暮らしに関することを総合的に記録してください。この“観察記録”については、ご本人がメモすることは難しいはずですので、ご家族が積極的に関与する必要があるでしょう。
1-2.病院へ行くことを無理強いしない
認知症と聞くと、多くの方が「自分自身が正体をなくしてしまう状態」をイメージします。それは認知症が疑われるご本人も同じで、「恥ずかしい」、「家族に迷惑をかける」、「いや、認知症のはずはない」など、心に葛藤を抱えているはずです。この悩みを刺激しないよう、病院へ行くことを無理強いしないことが大切です。
かかりつけ医に「念のため他の検査もしてみませんか」と促してもらう、「私自身もちょっと物忘れが増えたから、私と一緒に検査を受けてみない」と共に検査を受けることを提案するなど、ご本人の悩みやプライドを刺激しない方法をとってください。「元気でいてくれることがなによりだから」と、ご本人を励ますような声かけもとても重要です。
※「認知症かも」と思ったときにどうすべきかについては、「認知症の初期症状と思い当たる場合の対応策」もご参考になさってください。
1-3.どの病院に行くべきかをチェックしておく
最近では「物忘れ外来」といった科を標榜している病院もありますが、そのような病院を見つけられない場合は、精神科・心療内科・脳外科・神経内科などを探し、認知症の検査をしているかどうか確認しておいてください。もしもご自身で病院を探し出せない場合は、市区町村の健康・福祉にかかわる窓口に相談すると病院が見つかるはずです。
より専門的な検査を求める必要があるかもしれないと感じられる場合は、このようなサイトで専門医を探すのもひとつの方法です(日本認知症学会認定専門医│日本認知症学会)。しかしながら、かかりつけ医に受診を促してもらう場合、最初から専門医を勧めることは難しいかもしれませんので、「全国にこれだけ専門医がいる」という理解に留めるのがよいでしょう。
2.認知症の検査方法にはいくつもの種類がある
認知症の検査方法には、様々なものがあります。基本的なチェック法や、医療機器を用いるものまでありますが、その代表的なものは以下の通りです。
2-1.長谷川式認知症MCIテスト

簡易的なチェック法として広く用いられているのが、長谷川式認知症MCIテストです。長谷川式認知症簡易評価スケールと呼ばれることもあります。
- 本人の年齢を聞く
- 検査当日の日付や曜日を聞く
- 今いる場所について尋ねる
- 事前に伝えたいくつかの単語を順番どおりに答えられるかを調べる
- 簡単な計算をしてもらう
- 複数の絵を見せ、それを隠した後に何の絵であったか答えてもらう
このような簡単なテストを行い、点数をつけます。今の「記憶力」「脳の働き方」を客観的に“計測”するもので、認知症の程度の目安とします。
2-2.【脳の萎縮などの検査】CTもしくはMRI

問診や簡易テストで認知症が疑われる場合には、CTやMRIといった医療診断機を用いて画像で脳の状態をチェックします。今現在脳に萎縮が認められるか、脳梗塞がないかなどの検査をするためです。
CTとMRIは大きな円盤の中に体を通すという手順を取りますので、見た目上よく似ているものですが、それぞれ次のような特徴があります。
撮影法の原理 | メリット・デメリット | |
CT | エックス線 |
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MRI | 磁気共鳴 |
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2-3.【脳の血流などの検査】SPECTもしくはPET
体は、血液に乗って運ばれる栄養素や酸素で健康を保っています。もしも、脳の一部に正しく血液が送られていないとしたら、それが原因で認知症様症状を呈すことがあります。その血液の流れの状態をチェックするために用いられるのが、SPECT(脳血流シンチグラフィ)もしくはPET(ポジトロン断層撮影)です。
撮影法の原理 | メリット・デメリット | |
SPECT | 事前に投与した微量な放射線を計測 |
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PET | 事前に投与した微量な放射線を計測 |
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これらの検査を総合して原因を探り、
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
- 脳血管性認知症
などの中から診断が下され、また、どの程度の進行具合なのかが判断されます。
※認知症の種類や原因については、「こんなにあった!認知症の原因と病名、症状について」もご参考になさってください。
3.早期発見のためのMCIスクリーニング検査

認知症様の症状が出る前でも、アルツハイマー型認知症の予防として行える検査があります。これは、アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドベータペプチドの濃度を計測し、統計学的確率をはじき出す血液検査です。リスク計測を目的としたものではありますが、家系的に「アルツハイマーの傾向があるかも」と考える方にとってはひとつの予防対策となるでしょう。
しかしながら、MCIスクリーニング検査は保険適用外です。自費での検査となりますし、この検査を実施している医療機関は多くはありませんのでその点への注意も必要です。
4.ご家族・親族の気づきが何より重要
ケガによる硬膜外血腫など、「外部から目に見える形で頭部にダメージを受けた」以外での認知症は、日々少しずつ進行していくものです。その点からすると、ご家族や親族の気づきが“最初”・“最大”に位置づけられる診断のきっかけです。一定の年齢以上になった方に対して、観察は欠かせません。
認知症の前兆を取りこぼすことなく発見し、できるだけ早く検査を受けてもらえるよう心がけるのがベストです。中には他の臓器の疾患に影響され誘発される認知症もありますので、持病を持っている方に対しての注意は特に重要です。
ご家族・親族の配慮があるとわかれば、認知症の疑いがある方も心強いことでしょう。特にこころのあり方(落ち込みなど)に大きく影響を及ぼすタイプの認知症は、ご本人も心細さを感じているはずです。実は、認知症外来を訪れる患者の5人に1人は、うつ病性障害であるとされているのです(高齢者のうつの基礎知識│厚生労働省)。

高齢者のうつの基礎知識│厚生労働省
単に「物忘れがひどくなった」「会話がかみ合わない」という現象の裏側に、こころの問題がないかに注意していただきたいと思います。逆に、こころの問題と思っていても、場合によっては認知症である可能性も否定できないことが、上の資料から読み取れます。
認知症とうつ症状は原因が異なることが多いものです。しかしながら、感情を司るのは脳であることを理解しておけば、認知症を疑われているご本人にとって「こころのケア」はとても重要であることはすぐにわかります。
検査によって認知症と診断が下っても下らなくても、高齢者にとっては体だけでなく、こころの支援が必要なことは明白です。その観点から考えても、ご家族や親族の見守りが何より大切といえるでしょう。
まとめ
認知症の検査には、いくつものステップ・種類があります。その検査により、認知症の原因をさぐり、治療法(対処法)の計画が定められます。この流れは、ご家族の協力なしにはスムーズに進みません。
認知症の検査の代表的なもの、そしてご家族・ご親族に気をつけていただきたいことをご説明しましたが、今回このページで覚えておいていただきたいのは、大きく以下の5つに集約されます。
- 家族や親族がご高齢の方の異変に気づいたら、その経緯・状況をメモしておく。どの病院に行けばよいのかを調べるのと同時に、かかりつけ医に「念のため他の検査もしましょう」と促してもらうよう協力を依頼する
- 認知症の検査は、記憶力や脳の働き方をテストする長谷川式認知症MCIテストが“第一弾”。本人の年齢、簡単な計算、画像の記憶など簡単なチェックなので、気軽に試せることを本人に伝える
- 脳の状態(萎縮など)を検査するために、CTやMRI、SPECT、PETなどが採用される。脳のどの場所がどのような状態であるかを画像診断することで、認知症の原因を探り、治療(対策)の計画が立案される
- アルツハイマー型認知症のリスク計測はMCIスクリーニング検査で行われる。しかしながら、あくまでも統計学的確率を導くためのもので、保険適用外、目安として用いるためのものと考える
- 認知症と高齢者のうつ病は症状が似ていることがある。認知症外来に訪れる5人に1人は高齢者のうつ病である結果があり、認知症であろうがうつであろうが、ご家族・親族の気づきやサポートはとても重要とわかる